ロンドン海軍軍縮条約
海軍軍備を制限した条約。巡洋艦、駆逐艦、潜水艦などの補助艦の保有と性能を制限していた。
ワシントン海軍軍縮条約の締結後、各国は保有量を制限されなかった補助艦の増強に力を入れた。そのため新たな建艦競争が勃発し、その競争は年々激しさを増していた。
そこで1930年1月、補助艦の建艦競争を緩和するための海軍軍備制限について審議するため、ロンドンにおいて会議を開催した。この会議はワシントン条約で規定された「条約実施のときより8年後に会議を開催する」という規定に従ったものである。
日本はこの会議に臨むに当たって、次のような方針を立てていた。
- 先のワシントン条約で主力艦の保有量を対米6割に甘んじたので、補助艦については少なくとも現保有量の7割を確保する。
- 特に20.3cm砲搭載の大型巡洋艦は7割を確保する。
- 潜水艦については現保有量78,000tを確保する。
ロンドン会議の審議は難航し、特に米国が日本に対して補助艦と大型巡洋艦の対米比率6割を要求して、日本が要求する対米7割を強行に反対した。しかし、双方が妥協した結果、補助艦の総保有量は対米比率6.975割とし、ほぼ日本の主張が通ったが、大型巡洋艦については対米6.022割とされた。潜水艦に関しても現保有量を確保できなかったものの、対米比率は均等とされた。
性能に関しては、巡洋艦は備砲の口径で重巡と軽巡に区分、駆逐艦と潜水艦は備砲と排水量、制限外の水上艦に関しても細かく性能が制限された。その他、ワシントン条約で規定された主力艦の代換建造の延期、空母の備砲の口径と定義などに関する改定も合わせて行われ、「ロンドン海軍軍縮条約」として1930年4月22日に調印、1931年1月1日に公布された。
艦種 | 基準排水量 | 備砲・装備品 |
---|---|---|
重巡洋艦 | 1,850tを超え10,000t以下 | 15.5cmを超え20.3cm以下の砲 |
軽巡洋艦 | 1,850tを超え10,000t以下 | 13.0cmを超え15.5cm以下の砲 |
駆逐艦 | 600tを超え1,850t以下 1,500tを超える駆逐艦は、 保有量の16%以内まで | 13.0cm以下 |
潜水艦 | 2,000t以下 | 13.0cm以下の砲 |
特例で3隻まで2,800t以下 | 15.5cm以下の砲 | |
仏国のみ2,880tの潜水艦を1隻 | 20.3cm砲 | |
空母 | 27,000t以下 | 20.3cm以下の砲 15.5cmを超える砲を装備の場合、 12.7cmを超える砲の合計は10門以下 |
特例で2隻まで33,000t以下 | 20.3cm以下の砲 15.5cmを超える砲を装備の場合、 12.7cmを超える砲の合計は8門以下 | |
10,000t以下 | 15.5cm以下の砲 | |
制限外の 水上艦 | 600t以下 | 無制限 |
600tを超え2,000t以下 | 15.5cm以下の砲 7.6cmを超える砲は4門以下 魚雷を発射可能な装置なし 速力20ノット以下 | |
10,000t以下 | 15.5cm以下の砲 7.6cmを超える砲は4門以下 魚雷を発射可能な装置なし 速力20ノット以下 装甲板による防御なし 機雷を敷設可能な装置なし 航空機着艦装置なし 射出機は中央線上に1基または両舷に1基ずつまで 射出機装備の場合は搭載可能な航空機は3機まで |
その後、1934年6月18日からは第二次ロンドン会議の予備交渉が始まった。予備交渉では航空母艦の全廃、あるいは航空母艦を存続する場合は補助艦の保有量を一括して総トン数とするかで審議されたが、合意には至らなかった。
日本はこの交渉中の1934年12月29日、ワシントン条約の破棄を通告する。
1935年12月9日からは米英日仏の4ヶ国が参加して第二次ロンドン会議の本会議が開催された。日本は主力艦の比率が現状の対米英6割では不満であるとし、これを改定するよう求めた。しかし米英が反対して会議は紛糾、同年12月21日には休会となってしまった。
翌年1月6日に会議は再開されたが、日本は1月15日にこの会議から脱退したため、米英仏のみで第ニ次ロンドン条約が締結された。
第二次ロンドン条約では主力艦の主砲口径を35.6cmに制限することが定められたが、付帯事項としてワシントン条約締約国のいずれかが1937年4月1日までに同条約に参加しなかった場合は、主砲口径を40.6cm、排水量を45,000tまでに制限が緩和されることが規定されていた。
これは日本が同条約に参加しなかったので、主力艦の制限が緩和されることになった。
ロンドン条約の内容は以下のとおり。
巡洋艦、駆逐艦及び潜水艦の各保有量
- 巡洋艦、駆逐艦及び潜水艦の各保有量を以下の通りとする。
艦種 | 甲巡洋艦 | 乙巡洋艦 | 駆逐艦 | 潜水艦 |
---|---|---|---|---|
アメリカ | 180,000t | 143,500t | 150,000t | 52,700t |
イギリス | 146,800t | 192,200t | 150,000t | 52,700t |
日本 | 108,400t | 100,450t | 105,500t | 52,700t |
- 甲巡洋艦の最大保有隻数は米国は18隻、英国は15隻、日本は12隻までとする。
- 駆逐艦種の保有量の16%内を基準排水量1,500tを超える艦船に使用することができる。1930年4月1日時点で竣工または建造中の駆逐艦は16%を超えて保有することができるも、基準排水量1,500tを超える他の駆逐艦は、16%まで引き下げが実現するまで建造または取得してはならない。
- 甲巡と乙巡を合計した保有量の25%内を航空機着艦用の甲板を装備した艦船に使用することができる。
巡洋艦及び駆逐艦の定義
- 「巡洋艦」とは主力艦または航空母艦以外の水上艦船にして基準排水量1,850tを超えるか、または口径13.0cmを超える砲を装備するものをいう。
巡洋艦は以下の二つに区分する。
甲巡洋艦(重巡洋艦) 口径15.5cmを超える砲を装備する巡洋艦
乙巡洋艦(軽巡洋艦) 口径15.5cm以下の砲を装備する巡洋艦 - 「駆逐艦」とは基準排水量1,850t以下の水上艦船にして口径13.0cm以下の砲を装備するものをいう。
潜水艦に関する基準排水量及び砲口径の制限
- 基準排水量2,000tを超えるか、または口径13.0cmを超える砲を装備する潜水艦の建造または取得を制限する。
- 特例として基準排水量2,800tまでの潜水艦を3隻まで保有し、建造また取得することができる。この潜水艦については口径15.5cm以下の砲を装備することができる。
また、仏国はその隻数内において、すでに進水した口径20.3cmの砲を装備した基準排水量2,880tの潜水艦1隻を保有できる。 - 締約国は1930年4月1日時点において保有する口径13.0cm以下の砲を装備した基準排水量2,000t以下の潜水艦を保有することができる。
- 潜水艦の基準排水量とは乗員、弾薬、糧食、その他の消耗品を計画量だけ搭載し、一切の燃料、予備給水、バラスト用水を搭載しない水上における排水量をいう。
航空母艦に関する規則
- ワシントン条約で示した航空母艦の定義は以下の定義に変更する。
「航空母艦」とは排水量に関係なく、航空機を搭載する目的で設計され、艦上において航空機の発着可能な構造を有する一切の水上艦船をいう。 - 主力艦、巡洋艦または駆逐艦に航空機の着艦用または離艦用の甲板を装備することは、航空母艦として設計されたか、または改造されたものではない限り、この艦船を航空母艦の艦種に算入または分類しない。
- 1930年4月1日時点において現存する主力艦には、航空機発着用の甲板を装備することを禁止する。
- 口径15.5cmを超える砲を装備する基準排水量10,000t以下の航空母艦を建造または取得を禁止する。
- ワシントン条約において「口径15.2cm」と示されているものは、今後「口径15.5cm」に取って代わる。
一切の制限を受けない艦船
- 基準排水量600t以下の水上戦闘艦船。
- 基準排水量600t以上から2,000tまでの水上戦闘艦船。ただし、以下の条件に全て当てはまらない場合に限る。
- 口径15.5cmを超える砲を装備している
- 口径7.6cmを超える砲を4門を超えて装備している
- 魚雷を発射するよう設計されているか、またはその装置が取り付けられている
- 20ノットを超える速力が得られるよう設計されている
- 戦闘用または艦隊要務あるいは軍隊輸送の目的以外で使用する艦船。ただし、以下の条件に全て当てはまらない場合に限る。
- 口径15.5cmを超える砲を装備している
- 口径7.6cmを超える砲を4門を超えて装備している
- 魚雷を発射するよう設計されているか、またはその装置が取り付けられている
- 20ノットを超える速力が得られるよう設計されている
- 装甲板により防御されている
- 機雷を敷設するよう設計されているか、またはその装置が取り付けられている
- 空中より航空機が着艦できるようになっている
- 中央線上に航空機発進装置1基をまたは各弦側に1基づつ、即ち2基を超えて装備している
- 航空機を空中に発進する装置が付けられている場合、3機を超える航空機を海上で行動できるように設計または改造されている
主力艦の代換建造の延期
締約国はワシントン条約で規定された代換の起工を1931年から1936年まで禁止する。ただし、不慮の事故により亡失または破壊されたときは、この適用を受けず。
なお、仏伊はワシントン条約の規定により1927年及び1929年に起工する権利を与えられた代換を建造することができる。
保有する主力艦の処分方法
- 米英日は以下の主力艦を規定に従って処分する。
米国 フロリダ、ユタ、アーカンソーまたはワイオミング
英国 ベンボー、アイアン・デューク、マールバラ、エンペラー・オブ・インディア、タイガー
日本 比叡 - 米国が廃棄する艦船中の1隻及び英国が廃棄する艦船中の2隻は、本条約の実施の時より12ヶ月以内に戦闘任務に使用不能の状態にし、その実施の時より24ヶ月以内に廃棄を完了する。ただし、米国が廃棄するユタ並びに英国が廃棄するマールバラ及びエンペラー・オブ・インディアについては、本条約の実施の時よりそれぞれ18ヶ月及び30ヶ月とする。
- 本条約により処分する艦船中、以下は練習用のため保有することができる。
米国 アーカンソーまたはワイオミング
英国 アイアン・デューク
日本 比叡
上記艦船は本条約の「練習用のため保有する艦船に関する規則」に規定する状態にする。その状態にするための作業は、本条約の実施の時より米英については12ヶ月以内に、また日本については18ヶ月以内にこれを開始し、実施開始期間の満了の時より6ヶ月以内に完了すること。
上記艦船中、練習用のために保有しないものは、本条約の実施の時より18ヶ月以内に戦闘任務に使用不能の状態にし、30ヶ月以内にこれを廃棄する。
代換に関する規則
艦船はその竣工の日より以下の年数が経過したとき「艦齢超過」とみなされ、代換ができる。
- 基準排水量3,000tを超え、10,000t以下の水上艦船
- 1920年1月1日より前に起工したときは16年
- 1919年12月31日より後に起工したときは20年
- 基準排水量3,000t以下の水上艦船
- 1921年1月1日より前に起工したときは12年
- 1920年12月31日より後に起工したときは16年
- 潜水艦については13年
艦船が亡失または不慮の事故による破壊の場合は、直ちにこれを代換することができる。
通知の義務
締約国は主力艦、航空母艦及び制限を受けない艦船以外の艦船について、起工または竣工した艦船の起工日及び竣工日のそれぞれ1ヶ月以内に以下の細目事項を他の各締約国に通知する。なお、主力艦及び航空母艦に関する通知についてはワシントン条約ですでに規定されている。
- 起工日において通知する細目
- キール据付の日
- 艦船の艦種別
- 基準排水量
- 水線長、水線または水線下の最大幅
- 基準排水量における平均喫水
- 最大備砲の口径
- 竣工日において通知する細目
竣工日及び上記2~6の細目
艦船の処分に関する規則
主力艦以外の艦船は以下の方法により処分する。
- 廃棄する(沈没または解体する)
- 艦船をハルクに変更する
- 艦船を標的用に変更する
- 艦船を実験用のため保有する
- 艦船を練習用のため保有する
艦船の廃棄に関する規則
- 代換により廃棄する艦船は、その代艦の竣工日より6ヶ月以内に戦闘任務に使用不能の状態にする。ただし、その代艦の竣工が遅延したときは、戦闘任務に使用不能の状態にする作業は起工日より4年以内に完了すること。3,000t以下の水上艦船についてはその期間は3年半に短縮する。
- 廃棄する艦船は以下の諸物件が撤去または陸揚げされるか、あるいは艦内において破壊したとき、戦闘任務に使用不能の状態と認める。
- 一切の砲及び砲の主要部分、射撃指揮所及び一切の砲塔の旋回部
- 一切の砲塔操作用の水圧機械または電力機械
- 一切の射撃指揮要具及び測距儀
- 一切の弾薬、爆薬、機雷及び機雷敷設用軌道
- 一切の魚雷、実用頭部、魚雷発射管及び発射管旋回盤用軌道
- 一切の無線電信装置
- 一切の主要推進機械またはこれの代わりとして装甲司令塔及び一切の舷側装甲板
- 一切の航空機用クレーン、デリック、昇降機及び発進装置、一切の航空機着艦用もしくは離艦用の甲板またはこれの代わりとして一切の主要推進機械
- 潜水艦については上記の他に、一切の主要蓄電池、空気圧搾装置及びバラスト、ポンプ
- 廃棄は艦船を戦闘任務に使用不能の状態にする作業の完了期限到来の日より12ヶ月以内に以下のいずれかの方法により実施する。
- 艦船を永久に沈没する
- 艦船を解体する。解体は一切の機械、一切の機関、装甲、甲板、舷側及び船底の板の破壊または撤去を含む
艦船のハルクへの変更に関する規則
ハルクに変更することで処分する艦船は、上記の戦闘任務に使用不能の状態(6~8を除く)にし、さらに以下の作業を実施したとき、これを処分したものと認める。
- 一切の推進軸、推力受、タービン減速装置または推進用主電タービンまたは蒸汽笛を修繕可能な程度に破壊する
- 推進機張出受を撤去する
- 一切の航空機用昇降機を撤去して解体する
- 一切の航空機用クレーン、デリック及び発進装置を撤去する
艦船の標的用への変更に関する規則
- 標的用に変更することで処分する艦船は、以下の物件を撤去して陸揚げされるか、または艦内において使用不能にしたとき、戦闘任務に使用不能の状態と認める。
- 一切の砲
- 一切の射撃指揮所及び射撃指揮要具、主要射撃指揮通信電線
- 砲架操作用または砲塔操作用の一切の機械
- 一切の弾薬、爆薬、機雷、魚雷及び魚雷発射管
- 一切の航空用設備及び付属物件
- 戦闘任務に使用不能の状態にする作業期間は、艦船の廃棄と同一とする。
- 各締約国はワシントン条約で有する権利以外に、以下を標的用のため同時に保有することを認める。
- 巡洋艦または駆逐艦を3隻まで保有できる。ただし、3隻中の1隻は基準排水量3千トンを超えて保有できる。
- 潜水艦1隻を保有できる。
- 標的用のため艦船を保有したときは、これを再び戦闘任務用に変更することを禁止する。
実験用のため保有する艦船に関する規則
- 実験用に使用することで処分する艦船は、艦船の標的用への変更に関する規則に従って、戦闘任務に使用不能の状態にする。
- 特別の実験のため戦闘任務に使用不能の状態にできないときは、他の締約国にその旨を通告することで、一時的な措置として許される。
- 各締約国は実験用のため、以下を同時に保有することを認める。
- 巡洋艦または駆逐艦を2隻まで保有できる。ただし、2隻中の1隻は基準排水量3千トンを超えて保有できる。
- 潜水艦1隻を保有できる。
- 英国は実験用のため、主砲及び砲架をすでに破壊したモニター艦ロバーツ及び水上機母艦アークロイヤルを、必要がなくなるまで保有することを認める。この2隻の艦船は上記で保有が許された艦船の保有を妨げるものではない。
- 実験用のため艦船を保有したときは、これを再び戦闘任務用に変更することを禁止する。
練習用のため保有する艦船に関する規則
- 各締約国はワシントン条約で有する権利以外に、以下の艦船を練習用のため保有することを認める。
米国 主力艦1隻(アーカンソーまたはワイオミング)
英国 主力艦1隻(アイアン・デューク)
日本 主力艦1隻(比叡)及び巡洋艦3隻(球磨級)
仏国及び伊国 水上艦船2隻 内1隻は基準排水量3,000tを超えて保有できる - 練習用のため保有する艦船は、その艦船を処分するのに要する日より6ヶ月以内に以下の処理をすること。
- 主力艦
- 主砲、一切の砲塔の旋回部及び砲塔操作用機械の撤去。ただし、砲塔3基は各艦に残すことができる
- 射撃訓練のために要する量を超える一切の弾薬及び爆薬の撤去
- 司令塔及び最前部から最後部の砲塔間の舷側装甲帯の撤去
- 一切の魚雷発射管の撤去または破壊
- 最高速力18ノットを得るのに必要なもの以外の機関の撤去または艦内において破壊
- 日本、仏国、伊国が保有する他の水上艦船
- 砲の半数を撤去。ただし主砲4門は各艦船に残すことができる
- 一切の魚雷発射管の撤去
- 一切の航空機用設備及び付属物件の撤去
- 機関の半数の撤去
- 主力艦
- 締約国は練習用のため保有する艦船を戦闘用に使用することを禁止する。
本条約の効力
本条約は1936年12月31日まで効力を有する。