決号作戦ニ於ケル海軍作戦計画大綱(案)
第一 作戦目的
本土ニ来攻スル敵上陸船団ノ過半ヲ海上ニ撃破シ地上戦ト相俟テ敵ノ進攻企図ヲ挫折シ 以テ皇国ヲ悠久ニ護持スルニ在リ
第二 作戦方針
- 一、
- 帝国海軍ハ其ノ全力ヲ緊急戦力化シ特ニ航空兵力ノ実働率ヲ画期的ニ向上セシムルト共ニ航空関係並ニ水上水中特攻作戦準備ヲ促進ス
右作戦準備間 敵空襲ヲ予期シ極力本土所要ノ枢要部特ニ生産、交通並ニ作戦準備ヲ掩護ス
- 二、
- 敵上陸船団本土ニ来攻セバ 初動約十日間ニ其ノ来攻隻数ノ尠クモ半数ハ之ヲ海上ニ撃沈破シ 残敵ハ地上ニ於テ掃滅シ得ル如クス
- 三、
- 前項作戦実施ニ当リテハ 爾他一切ヲ顧ミルコトナク 航空及水上水中特攻ノ集中可能全力ヲ以テ当面ノ撃滅戦ヲ展開スルモノトシ 凡百ノ戦闘ハ特攻ヲ基調トシテ之ヲ遂行ス
第三 作戦指導
其ノ一 対上陸作戦指導
- 一、
- 敵ノ進攻基地並ニ其ノ作戦線ニ対スル索敵ヲ行ヒ敵企図ヲ早期ニ看破シ以テ主作戦方面ノ決定ニ資シ戦機ニ即応シ得ル如ク兵力ノ移動展開ヲ開始ス
- 二、
- 敵ノ初期来攻兵力十五個師団、船艇一五〇〇隻ノ半数七五〇隻ヲ地上決戦生起前即チ約十日間ニ撃沈スル為
- (イ)
- 海軍ハ特攻機実働二五〇〇機(三〇〇〇機準備)ヲ七月十五日迄ニ完整 輸送船艇ニノミ集中攻撃ヲ加ヘ四〇〇隻以上ヲ撃沈ス
- (ロ)
- 陸軍モ概ネ同様ノ方途ヲ講ズルコトトシ四〇〇隻以上ヲ撃沈ス
右撃滅戦ヲ以テ敵ノ上陸企図ヲ挫折セシムルモノトス
而シテ本攻撃ニ当リテハ 短期間ニ大兵力ノ攻撃ヲ行フベキヲ特ニ重視シ 戦力ノ機動集中ノ迅速ヲ期シ得ル如ク整備能力ノ充実並ニ軍需品ノ集積、通信運輸、交通路等ノ整備ヲ促進ス
- 三、
- 敵機動部隊ニ対シテハ積極活発ナル敵上陸船団ニ対スル直掩ヲ阻止スルヲ度トシ機略ニ富ム攻撃ヲ実施スルモノトシ 之ニ要スル兵力約四〇〇機ヲ控置待機セシム
敵機動部隊ノ搭載機ニ依リ前項船団攻撃ガ著シク阻害ヲ受ケザル場合ハ適時本兵力ヲ船団攻撃ニ転用スルモノトス
- 四、
- 特攻攻撃ニ当タリテハ黎明薄暮月夜等天象ノ極度利用ヲ計ルト共ニ 実用機特攻ハ情況ニ応ジ制空隊協力ノ下ニ果敢ナル攻撃ヲ行フ要アルヲ以テ所要制空隊ノ整備ヲ要ス 尚好機ニ投ジ特攻ノ昼間ノ「ゲリラ」用法ヲモ併用シ敵ノ虚ニ投ズ
- 五、
- 敵ノ上陸掩護艦隊ニ対シテハ厳ニ航空特攻ヲ指向スルコトナシ 水上水中特攻ニ於テモ輸送船ヲ第一目標トスルモ水中特攻ニ付テハ 好機ニ投ジ艦艇ニ対シ攻撃スルヲ妨ゲズ
- 六、
- 潜水艦部隊ハ全力ヲ挙ゲテ敵輸送船団ヲ泊地外方ニ補足攻撃ス 尚情況ニ応ジ水上軽快艦艇ヲ以テ敵輸送船団ノ夜襲ニ任ゼシムコトアリ
- 七、
- 右作戦指導ニ当リテハ敵ノ牽制又ハ次期企図ニ対シ何等顧慮スルコトナク集中可能全兵力ヲ投入ス
(註)敵ノ来攻ヲ七月中旬以降本土西半部トノ判決ヲ根本トス
- 八、
- 本土作戦前ニ於ケル敵ノ南西諸島及小笠原諸島ニ対スル滲透的進攻ニ対シテハ 本攻撃兵力整備ノ為支障ナキ範囲内ニ於テ極力出血作戦ヲ行ヒ 敵進攻ヲ阻害スルニ努ム
- 九、
- 敵ノ台湾及支那方面ニ対スル敵ノ進攻企図ニ対シテハ概ネ所在兵力ヲ以テ対処ス
- 十、
- 敵ノ本土進攻過度ニ遷延セントスル兆アル場合ハ一時機積極航空活動ヲ停止スル等我邀撃戦力著シク低下セルノ情況ヲ故ラニ現示シ 敵ノ来攻促進ヲ企図スルコトアリ
其ノ二 対空襲作戦指導
- 一、
- 敵ノ来襲方面ヲ予察シ勉メテ防空兵力ヲ当該要地ニ集中シ 時々 好機を捕捉シテ防空戦闘隊ノ大挙反撃ヲ実施シ敵大型機ヲ撃破ス
敵小型機ニ対シテハ 作戦上特ニ緊要トスル場合ノ外邀撃ヲ実施セズ
- 二、
- 為シ得ル限リ敵ノ本土空襲基地ヲ奇襲制圧スルニ努ム
- 三、
- 我作戦基地ヲ強化シ 飛行機秘匿完璧ナル飛行場ヲ設定スル等ニ依リ 敵ノ熾烈ナル銃爆撃下尚克ク靭強ナル作戦ノ遂行ニ遺憾ナカラシム
- 四、
- 防空ノ重点ヲ重要基地、交通要点及重要生産施設ニ集中シ 尚敵航空基地ノ強化推進、我防空戦闘隊ノ戦力、要掩護地域ノ情況等情況ノ推移ニ即応シ適宜重点ノ移行ヲ予期ス
其ノ三 海上護衛作戦指導
- 一、
- 海上護衛ノ重点ヲ日本海ニ於ケル対潜作戦及主要港湾、水道ニ於ケル掃海ニ集中シ 極力日本海及内海ノ運航ヲ確保ス
- 二、
- 為シ得ル限リ対潜航空部隊及対潜艦艇ヲ日本海ノ要域ニ集中シ 侵入敵潜ノ必滅ヲ期ス 之ガ為所要ニ応ジ直接護衛ヲモ実施ス
- 三、
- 敵大型機ノ機雷敷設ニ対シテハ極力 水道、要域内敷設ヲ不可能ナラシムル如ク其ノ行動ヲ妨害スルト共ニ 爾後急速掃海ヲ実施ス 此ノ際船舶運航指導ニ当リテハ特ニ運航能率低下局限ヲ重視スルモノトス
- 四、
- 日本海ニ進入セントスル敵水上艦艇ニ対シテハ集中可能ノ全力ヲ以テ攻撃シ之ガ撃滅ヲ期ス