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連合艦隊司令長官ノ準拠スベキ作戦指導大綱

大海令第三十七号別冊
連合艦隊司令長官ノ準拠スベキ作戦指導大綱

第一 作戦方針
帝国陸海軍ハ機微ナル世界情勢ノ変転ニ臨ミ重点ヲ主敵米軍ノ進攻破催ニ指向シ随所縦深ニ亙リ敵戦力ヲ撃破シテ戦争遂行上緊喫ノ要域ヲ確保シ以テ敵戦意ヲ挫折シ戦争目的ノ達成ヲ図ル

第二 作戦指導ノ大綱
一、
陸海軍ハ戦局愈々至難ナルヲ予期シツツ既成ノ戦略態勢ヲ活用シ敵ノ進攻ヲ破催シ速ニ自主的態勢ノ確立ニ努ム
右自主的態勢ハ今後ノ作戦推移ヲ洞察シ速ニ先ツ皇土及之カ防衛ニ緊切ナル大陸要域ニ於テ不抜ノ邀撃態勢ヲ確立シ敵ノ来攻ニ方リテハ随時之ヲ撃破スルト共ニ此間状況之ヲ許ス限リ反撃戦力特ニ精強ナル航空戦力ヲ整備シ以テ積極不羈ノ作戦遂行ニ努ムルヲ以テ其主眼トス
二、
陸海軍ハ比島方面ニ来攻中ノ米軍主力ニ対シ靭強ナル作戦ヲ遂行シ之ヲ撃破シテ極力敵戦力ニ痛撃ヲ加フルト共ニ敵戦力ノ牽制抑留ニ努メ此間情勢ノ推移ヲ洞察シ之ニ即応シテ速ニ爾他方面ニ於ケル作戦準備ヲ促進ス
三、
陸海軍ハ主敵米軍ノ皇土要域方面ニ向フ進攻特ニ其優勢ナル空海戦力ニ対シ作戦準備ヲ完整シ之ヲ撃破ス 之カ為比島方面ヨリ皇土南陲ニ来攻スル敵ニ対シ東支那海周辺要地ニ於ケル作戦準備ヲ速急強化ス
敵ノ小笠原諸島(硫黄島含ム)来攻ニ対シ極力之カ防備ニ努ム
又敵一部ノ千島方面進攻ヲ予期シ又状況ニ依リ有力ナル敵ノ直路本土ニ暴進スルコトアルヲ顧慮シ之ニ対処シ得ル準備ニ遺憾無カラシム
四、
陸海軍ハ進攻スル米軍主力ニ対シ陸海特ニ航空戦力ヲ総合発揮シ敵戦力ヲ撃破シ其進攻企図ヲ破催ス此間他方面ニ在リテハ優勢ナル敵空海戦力ノ来攻ヲ予期シツツ主トシテ陸上部隊ヲ以テ作戦ヲ遂行スルモノトス
敵戦力ノ撃破ハ渡洋進攻ノ弱点ヲ補ヘ洋上ニ於テ痛撃ヲ加フルヲ主眼トシ爾後上陸セル敵ニ対シテハ補給遮断ト相俟ツテ陸上ニ於テ其目的ヲ達成ス此際火力ノ集団機動ヲ重視ス
尚敵機動部隊ニ対シテハ努メテ不断ニ好機ヲ捕捉シ之ヲ求メテ漸滅ス
五、
支那大陸方面ニ在リテハ左ニ準拠シ主敵米軍ニ対スル作戦ヲ指導ス
(一)
支那大陸ニ於ケル戦略態勢ヲ速ニ強化シ東西両正面ヨリ進攻スル敵特ニ米軍ヲ撃破シテ其企図ヲ破催シ皇土ヲ中核トスル大陸ニ於ケル国防要域ヲ確保ス
(二)
東南支那沿岸要地ノ戦備ヲ強化シ南西諸島及台湾ト相俟ツテ東支那海周辺ニ於ケル作戦特ニ航空戦力ノ発揮ニ遺憾無カラシム
(三)
帝国本土進攻ニ先タチ若クハ之ニ併行シ米軍主力又ハ有力ナル一部ノ大陸進攻アルヲ予期シ上海及広東方面ノ作戦準備ヲ促進強化ス
(四)
大陸西方ニ在リテハ以上ノ作戦準備ニ策応シ来攻スル敵ヲ撃破シ特ニ敵航空ノ活動ヲ制圧シ状況之ヲ許ス限リ努メテ西方ニ地歩ヲ拡大シ敵ノ東南支那沿岸到達企図封殺ト相俟ツテ大陸ニ於ケル戦略態勢ヲ確立ス
之カ為一号作戦ニ拠リ獲得セル優位ノ態勢ヲ愈々強化シ其強靭ヲ図ル
六、
南西方面ニ在リテハ自活自戦態勢ヲ確立シ敵ノ資源及空海基地奪回企図ヲ破催スルヲ主眼トシ努メテ戦略態勢ヲ集約ス敵ノ来攻ニ方リテハ之ヲ撃破シ所要ノ要域ヲ確保シ全軍作戦ヲ容易ナラシム
七、
対蘇作戦準備ニ関シテハ依然現方針ニ拠ル
八、
陸海軍ハ愈々熾烈化スル敵ノ空襲ニ対シ努メテ其根拠ヲ奇襲シ之カ制圧ヲ図ル外主トシテ帝国本土ニ於ケル生産及交通ヲ防衛シ治安ヲ維持ス
近ク小笠原諸島方面ニ敵空襲基地ノ進出スルコトアルヲ予期シ之カ利用妨害ノ対策ヲ準備スルト共ニ特ニ帝都ノ防空準備ヲ速ニ強化促進ス
九、
以上ノ外国軍作戦遂行上所要ナル事項左ノ如シ
(一)
国軍ハ敵ノ妨害ヲ排除シ極力南方ヨリスル帝国燃料資源ノ還送作戦ヲ遂行スルト共ニ特ニ日満支間海上交通ヲ重視シ之カ確保ヲ期ス
(二)
国軍ハ長遠ナル敵ノ作戦線ニ対シ不断之ヲ擾乱脅威シ補給妨害ニ努ム
(三)
作戦目的完遂ノ為当面ノ作戦必成ヲ図ルノ外必勝兵備ヲ画期的ニ増強整備スルコトニ努ム
(四)
戦法、編制、兵器ノ創意ニ努メ特ニ奇襲特攻ヲ作戦上ノ要素トシ愈々増加スル彼我物的相対戦力ノ隔絶ニ対処ス

第三 各方面作戦指導ノ準拠

其一 皇土要域ニ於ケル作戦
一、
皇土要域ニ於ケル作戦ノ目的ハ敵ノ進攻ヲ破催シ皇土特ニ帝国本土ヲ確保スルニ在リ
二、
敵空襲ニ対シテハ努メテ其航空基地及機動部隊ヲ制圧シ又本土枢要部ノ防空態勢ヲ強化シ不断敵機ノ撃破ヲ図ル
積極防空ハ航空ヲ主体トシ特ニ之カ為所要ノ航空基地ヲ整備シ且之カ秘匿掩護ニ遺憾無カラシム
三、
皇土要域ニ於ケル空海ヨリスル敵ノ海陸交通破壊ニ対シ交通幹線、港湾ノ防衛ヲ強化ス
四、
皇土防衛ノ為ノ縦深作戦遂行上ノ前線ハ南千島、小笠原諸島(硫黄島ヲ含ム)沖縄本島以南ノ南西諸島、台湾及上海付近トシ之ヲ確保ス
右前線地帯ノ一部ニ於テ状況真ニ止ムヲ得ス敵ノ上陸ヲ見ル場合ニ於テモ極力敵ノ出血消耗ヲ図リ且敵ク空基盤造成ヲ妨害ス
五、
帝国本土、南鮮及上海付近ニ対スル敵ノ来攻上陸ニ際シテハ陸海空戦力ヲ総合発揮シテ之ヲ排擠撃滅ス又千島、小笠原、南西諸島及台湾ニ在リテハ敵ノ進攻ニ先タチ予メ所要ノ戦力ヲ投入シテ作戦準備ヲ整フルト共ニ機ヲ失セス所要ノ航空戦力ヲ集中増加シテ之ヲ撃破ス
六、
皇土特ニ本土及朝鮮ノ作戦準備ハ万難ヲ排シ速急且根本的ニ刷新強化ニ着手シ予期スル敵ノ熾烈ナル空襲ニ即応スル戦勝態勢ヲ整へツツ概ネ本年初秋迄ニ之ヲ概成ス
敵ノ上陸企図ニ対スル作戦準備ハ情勢ノ推移ニ即応セシムベキモ関東地方、九州及び南鮮方面ニ於テ先ツ速ニ之ヲ完整ス

其二 支那大陸方面ニ於ケル作戦
一、
支那大陸方面ニ於ケル作戦ノ目的ハ支那大陸ニ進行スル主敵米軍ヲ撃破シテ其企図ヲ破催シ大陸ニ於ケル要域ヲ確保スルト共ニ極力重慶勢力ノ衰亡ヲ図ルニ在リ
二、
主敵米軍ノ帝国本土ニ向フ進攻ヲ牽制脅威シ且支那沿岸到達企図ヲ封殺スル目的ヲ以テ速ニ東南支那沿岸要地ノ作戦準備ヲ強化ス
右作戦準備ハ先ツ空海基地ノ確保ヲ主眼トシ概ネ三月迄ニ之ヲ概成ス
又米軍ノ大陸進攻ニ対シ之ヲ撃破スル目的ヲ以テ成ルベク速ニ香港、広東付近及揚子江下流要域ノ作戦準備ヲ整備ス
三、
在支敵航空勢力ニ対シ其活動ヲ封殺ス之カ為其基地覆滅ヲ主トシ空地ヨリ進攻スル外奥地ニ対シテハ執拗長期ニ亙リ挺進遊撃ス
四、
重慶勢力ニ対シテハ愈々絶エサル圧迫ヲ加ヘ機宜其戦力ヲ撃破スルト共ニ活発ナル政謀略施策ト相俟ツテ敵ノ戦政略上ノ弱点ヲ衝キ其衰亡ヲ図ル
五、
軍ノ作戦根拠ヲ確立シ且重要国防資源ノ取得ヲ容易ナラシムル為占領地域特ニ北支那及揚子江下流要域ニ於ケル迅速ナル安定ヲ図ル
六、
支那大陸ト印度支那半島トヲ通スル空地ノ作戦連絡特ニ航空機動ノ基盤ヲ保持スルコトニ努ム
七、
日満支交通動脈ヲ確保シ特ニ内線ニ於ケル兵力機動ニ遺憾無カラシム

其三 南方作戦
一、
南方方面ニ於ケル作戦ノ目的ハ来攻スル敵ヲ撃破シ敵ノ奪回企図ニ対シ戦政略上ノ要域ヲ確保シテ皇土又ハ大陸ニ向フ敵ノ進攻ヲ努メテ制扼シ以テ全軍ノ作戦ヲ容易ナラシムルニ在リ
二、
比島方面ニ在リテハ依然靭強ナル作戦ヲ続行シ来攻スル敵ヲ撃破シ極力敵戦力ノ痛撃ヲ図ルト共ニ中北部「ルソン」ニ於ケル要地ヲ確保シ南西諸島、台湾及東南支那沿岸ニ対スル敵ノ進攻ヲ極力妨害遅滞ス
三、
南支那海域ヨリ進攻スル敵ニ対シ其周域特ニ印度支那半島及「ボルネオ」ノ防衛ヲ強化シ緬甸及馬来方面ト相俟ツテ来攻スル敵ヲ撃破シ印度洋、太平洋両方面ノ敵ノ合一ヲ阻止シ又支那大陸トノ空陸作戦連絡ヲ極力保持ス
仏印ハ成ルヘク速ニ武力処理ス対仏印作戦中ニ於ケル敵ノ来攻ニ際シテハ特ニ沿岸要地特ニ港湾ヲ確保ス
四、
不断敵作戦線ヲ脅威ス之カ為所要ノ空海遊撃兵力活動ノ根拠ハ之ヲ確保ス
五、
要域確保ニ方リテハ敵ノ奪回ヲ企図スヘキ戦政略上ノ要衝特ニ資源及空海基地ノ確保ニ戦力ノ重点ヲ保持スルノ外軍ノ自活自戦ノ為必要トスル要域及相互ノ交通ヲ維持スルヲ主眼トス
敵手ニ入ルノ虞レアル空海基地諸機能、交通及資源ハ所要ニ応シ適時破壊隠滅ス
六、
帝国戦争遂行上必須ノ物資ハ為シ得ル限リ之カ獲得還送ニ強力ス
七、
南方諸民族ニ対シ終止変ラサル帝国ノ真意ノ滲透ト戦局推移ニ即応スル指導トニ努ム

其四 中南部太平洋方面ニ於ケル作戦
一、
中南部太平洋方面作戦ノ目的ハ敵兵力ノ牽制、敵後方ノ脅威ヲ図ルト共ニ敵戦背後ノ情報ヲ獲得シ全軍ノ作戦ヲ容易ナラシムルニ在リ
二、
臨機一部空海部隊ヲ以テ遠ク挺進シ長遠ナル敵背後連絡線上ニ於テ敵ヲ奇襲シテ之カ擾乱脅威ヲ図リ特ニ補給ノ妨害ニ努ムルノ外形而上下ニ亙リ敵ヲ震撼ス
三、
所在ノ部隊ハ概ネ現態勢ヲ以テ極力自活自戦スルト共ニ為シ得ル限リ積極的ニ作戦目的達成ニ努メ且前項ノ挺身奇襲作戦ニ強力ス

其五 海上交通保護作戦
一、
海上交通保護作戦ノ目的ハ皇土要域特ニ朝鮮海峡、東支那海及日本海ニ於ケル制空、制海権ヲ確保シ又南北海上突破輸送特ニ燃料資源還送ヲ掩護シ以テ戦争及作戦遂行ヲ容易ナラシムルニ在リ
二、
海上交通保護ハ交通幹線ノ防衛ヲ主トスルモ要時要域ニ於ケル航空部隊及護衛艦艇ヲ以テスル局地輸送ノ直接掩護ニ遺憾無カラシム
三、
情報連絡ノ周密適切ヲ図ルト共ニ支那、仏印沿岸ニ於ケル敵ノ前進秘密基地ヲ索出シ之ヲ撲滅ス
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